中学時代、英語塾に通っていた。個人経営の先生で、個人のお宅を間借りして教室を開いていて、他にもう一つ教室を持っている以外はどこから来ている人なのかわからない謎の先生であった。
クラスは私を入れて5名、8畳間に長テーブルと座布団が置いてあり黒板と教壇があるだけの寺子屋みたいな部屋だった。梅雨時なんかちょっとかび臭い陰気な感じがする教室で、不満を言うことも無く通い続けたのには訳があった。
先生がとにかく強面の凶暴そうな人相で、入ってくるだけで室内に緊張感が走る・・・いつ借金の取り立て屋が来ても即刻逃げていってしまいそうな怖さだった。
ハリのある大声で英語を読む。私たちはひたすらそれに続いて教科書を読む。指されると緊張のあまり吐きそうになりながら一生懸命読んだが、気持ちはちゃんと伝わっていて時折「うむ、いいですね。」と褒めてくれるときもあった。
その塾に通い続けた私たちはマゾかしら・・・と思うほど、その怖さが次第に心地よくなっていた。
ある生徒が自分のことを『ワシ』と呼んでいた。きっとおじいちゃんか誰かの影響なのだろうが、『ワシ』は非常に出来が悪くていつも先生を悩ませたりイラつかせていた。どんなに教えても理解できない体質だったようで、先生もしまいに諦めムードで、「おい、『ワシ』はもう来なくていいぞ!」なんて冗談半分で言っていた。「なんで?」「やる気がないんだろ!?」「・・・そうでもないけど・・・」「だったらもっとちゃんと勉強しろよなっ!『ワシ』」
先生はついに彼のことを『ワシ』と呼ぶようになり、時々叱り飛ばしが入ったりするやりとりが面白くて、私たち女子3人はいつもクスクス笑っていた。
内心、(こんな生徒相手に先生は大変だな)と同情したりしていたが、彼が風邪で休んだときなどは、「おっ、『ワシ』は今日は休みか〜」とちょっと腑抜けのように力を抜いていたりしていたから、彼との問答が入るからこそ面白おかしく通っていたのかな・・・と今でも時々懐かしく思い出したりしている。